妻が突然,いろいろな言葉(特に物の名前)を思い出したみたい。自身の頭を指差して,その指をグルグル回しながら「何かヘンな感じなんだ,どうしょう。」と言う。体温と血圧(systol/diastol)を測ってみると,それぞれ36.6℃,115/80mmHgであったが,彼女は「アッそうだった,これ,体温計,血圧計。こんなこと分からなかったんだ,ホントにバカみたい,なんてこった。」と言って,測定結果の数値には関心を示さず,目の前にある物の名前をすぐに思い出せていることに驚いている様子。
その後も,洗面台の前に行って「これ,歯ブラシ,タオル掛け,…」と唱え,リフトアップチェアに戻って,思い出した言葉(今回は複合語が多かった)をメモ用紙に書きとめていた。(2021-11-14)

彼女はその時の頭の中の状態をうまく説明できず,「何かヘン」とか「何かおかしい」としか言ってくれないが,頭の中がいつもとはかなり違った状態になっているらしい。決して心地よい状態ではなさそうで,多少興奮しているので,しばらくベッドに入って休んでもらうことにした。
3月のボトックス注射の直後にも,同様の突然の言葉(特に物の名前)の回復が見られた。ボトックス注射によって触発されたわけではなさそうだが,彼女はその時も目にとまった物について,「アッそうかと思って,その名前を思い出す。」と言い,室内を積極的に歩き回っては,自身の周りにある物を(麻痺のない方の左手で)指差し,「ネコブラシ,マウス,ケシゴム,…」などと,それまで口にしなかった物の名前を喋り出していた。


この時も思い出した言葉は,リフトアップチェアに戻って左手でメモ用紙に書きとめていた。当時すでに漢字はかなり書けるようになっていたが,仮名はイマイチで,その都度私に確認を求めてきた。(2021-03-09)

言葉(特に物の名前)の記憶喪失状態からの回復って,こんな感じのかな。これまでに経験した麻痺が残る右下肢の回復(たぶん下肢の筋肉を動かすアルゴリズムの記憶の回復)は,毎日少しずつどこかの筋肉の一部が動き易くなっていくという感じで,物の名前の思い出しとはかなり違った回復パターンを示していた。
私との会話の中で必要になった言葉については,妻がそれを私に伝え,思い出すためには多少のドタバタを伴う。話せないが文字で表記できる言葉については,メモ用紙を用意すればいいのであまり問題はない。名前ではないが「あたたかい」という言葉をしゃべるまでの経緯は,「ボトックス注射後の右上肢の回復」のページの「右手の感覚の回復」の節に示した。
話せないだけでなく,文字による表記もできない言葉については,次の対応がある。
- 関連する絵を描く。
- ジェスチャで示す。
- 関連するキーワードで絞り込む。
「言語リハビリの自主トレ(子供用学習ツールの利用)」のページに示したように,1,と2.は,複雑な内容を示すことが難しい,最近になって話せる言葉が増えてきた妻には,3.が実用的な対応である。
12月25日の夜,妻がテレビを見ていて,食べたくなったものがあると言ってきたが,その名前を思い出せないと言う。それがポテトチップスであることを私が分るまでに,次のドタバタがあった。
妻は麻痺のない左手の指で小さい輪を作ったり,メモ用紙に円を描くので,丸い物であることは直ぐに分った。その後,私が彼女にいろいろ質問して,食事のおかずやフルーツではなく,お菓子であることまで絞り込んだ。「だんご? チョコボール? ドーナツ?」と聞くと,「甘くないもの」と言う。
そこまでのキーワードで検索すれば搾り込めそうであるが,妻はまだ,話せても必ずしも書いたりキー入力したりできるとは限らず,自身でパソコンを操作してキーワード検索することは難しい。それで私が検索した結果を彼女に示そうとしていたら,妻は突然「じゃがいも」と言い出した。それでようやく彼女の食べたいものが「ポテトチップス」であることを特定。その間に彼女がメモ用紙に書いた内容を添付。(2021-12-25)

妻の脳は回復傾向にあるとはいえ,まだまだこんな会話が毎日続きそう。